【映画館の記憶】非効率な時代の2本立てと、上映前の音楽、そして洋画配給への想い

 

現在の私たちは、高度に最適化されたアルゴリズムによって、自分の嗜好にぴったり合う映画やコンテンツを瞬時にレコメンドされる時代を生きています。それは確かに便利で効率的ですが、ふと昔の映画館にあった「不自由さ」や「想定外の出会い」がひどく懐かしくなることがあります。

夕暮れの昭和時代、日本の小さな街角にあるノスタルジックな映画館「テアトル昭和」のイラスト。木造と金属の古びた建物には、レトロな看板やポスターが掲げられ、夕焼け空の下で街灯が灯り始めている。館前には人々が行き交い、当時の車や自転車が停められている。

今回は、かつての映画館が持っていた独特の空気感と、現在の洋画配給事情について、個人的な記憶を辿りながら書き留めておきたいと思います。

「image_beec42.png」には、夏の晴れた日に「東映まんがまつり」が開催されている映画館の前で、楽しそうに列を作る小学生たちの様子が描かれています。映画館の壁にはマジンガーZや仮面ライダーV3などが描かれた大きなポスターが掲げられ、子供たちは夏休みのワクワクした表情でパンフレットを手にしています。手前にはかき氷を持って笑う子供たちもおり、昭和の夏休みらしいノスタルジックで賑やかな雰囲気が伝わる色鉛筆画風のイラストです。

予定調和を破壊する「2本立て興行」の洗礼

昔の映画館では、たまに『少林寺』や『レイダース/失われたアーク』のような特大ヒット作が一本立てで上映されることもありましたが、基本的には「2本立て(二本立て興行)」が普通でした。

「image_beed1a.png」は、少林寺での修行を描いたイラストです。中央では、黄色い道着を着た修行僧が両手に水を満たした木桶を担ぎ、険しい石段を登っています。背景には霧のかかった山々と中国風の寺院が描かれ、右側では他の修行僧たちが武術の訓練に励んでいます。全体的に古典的な映画のポスターのような、重厚感のあるタッチで描かれています。

この2本立てシステムが生み出す最大の恩恵であり悲劇は、「自分の目的とは違う映画に強制的に出会わされる」という点にあります。私にとって最も強烈な記憶として刻まれているのは、『遊星からの物体X』と『初体験リッチモンドハイ』の同時上映です。

「image_bef09d.png」は、80年代のコンビニエンスストアを舞台にした色鉛筆画風のイラストです。レジカウンターには店員と、長髪にチェックのシャツを着た若い男性がおり、男性がポケットから支払いのお金を取り出そうとしています。店内にはMTVのロゴが入ったテレビが設置され、商品棚にはスナック菓子やコミックが並んでいます。当時のアメリカの日常風景を切り取ったような、ノスタルジックな雰囲気の作品です。

当時、私は『初体験リッチモンドハイ』で見た若きショーン・ペンの姿に衝撃を受け、彼の真似をして財布を持たず、支払いの時は直接ポケットから現金を取り出して生活するほどにかぶれていました。

しかし、この日の映画館で起きた本当のドラマは、客席にありました。 前の席には、おそらく青春映画『初体験~』を目当てにやってきたのであろうカップルが座っていました。上映が始まり、ヴァンゲリス風の雄大な音楽と共に雪原を走る犬が映し出される。そこまでは『南極物語』のようなハートウォーミングな雰囲気すら漂っており、彼らも穏やかにスクリーンを眺めていました。

「image_bef3fd.png」は、雪深い壮大な山々を背景に、シベリアンハスキーのような犬が雪原を歩いている様子を描いたイラストです。犬の後ろには足跡が続いており、夕暮れのような柔らかな光が雪面を照らしています。右下には「雪原の絆」「音楽:ヴァンゲリス風」「上映開始」という文字が配置されており、まるで映画のポスターのような情緒的な雰囲気の作品です。

ところが、ノルウェー基地から逃げてきたその犬が「変異」した瞬間、状況は一変します。 スクリーンから溢れ出す、ジョン・カーペンター監督特有のおぞましいクリーチャーと異常な緊張感。耐えきれなくなったカップルたちは、ぞろぞろとざわつきながら席を立ち、退場していきました。後には少数の熱心なカーペンターファンだけが残されるという、シュールで残酷な空間の出来上がりです。

「image_befb42.png」は、映画館でパニックに陥っている観客を描いたコミック調のイラストです。スクリーンで何かが起きているのか、観客たちは驚きや恐怖の表情を浮かべたり、逃げ出そうと出口へ向かったりしています。「GROTESQUE! METAMORPHOSIS!」「ROAAR!」「SQUELCH!」「SHREEIEK!」といった派手なフォントの擬音語が画面内に配置され、ホラー映画のクライマックスのような騒々しく緊迫した雰囲気が伝わってきます。

かく言う私も、映画鑑賞直後に「ミートスパゲッティ」を食べる気には到底なれませんでした。しかし、この「自分の趣味とは違う、強烈な異物」を強制的に飲み込まされる体験こそが、当時の映画館という空間の醍醐味だったのです。

「image_befbe0.png」は、温かみのあるレストランで提供された、美味しそうなスパゲッティ・ボロネーゼのイラストです。手前のテーブルには、挽肉と野菜のソースがたっぷりとかかったスパゲッティ、付け合わせのパン、ワイングラス、水、そしてカトラリーが並べられています。背景には食事を楽しむ人々が描かれており、スケッチ風のタッチで描かれた、落ち着いた雰囲気のイタリアンレストランの風景です。

「マッドマックス」と上映前の音楽が仕掛けたミステリー

もう一つ、今の映画館から失われてしまって残念に思うのが「上映前の音楽」です。

「image_beff46.png」は、映画『マッドマックス2』をテーマにした、砂漠を舞台にした迫力あるイラストです。荒野の中で黒いインターセプター(Pursuit Special Interceptor)の横に立つ主人公マックスと、彼の傍らに寄り添う犬が描かれています。周囲には砂埃が舞い上がり、遠くには武装した車両の姿も見え、過酷な世界観が表現された映画ポスター風の作品です。

私が『マッドマックス』シリーズに初めて触れたのは『マッドマックス2』からでした。その際、本編が始まる前の薄暗い館内で、ある英語の楽曲が流れていました。荒廃した世界観にぴったり合う熱い歌声。「なるほど、これはパート1のテーマ曲なのだろう」と私は勝手に解釈しました。

「image_bf071f.png」は、雨の降る夜、車を運転する革ジャンを着た男性を描いたイラストです。険しい表情の男性はハンドルを握っており、車内の古びたダッシュボードや、窓の外に広がる雨に濡れた夜の街並みが、どこか退廃的で緊迫した映画のワンシーンのような雰囲気を醸し出しています。

しかしその後、『マッドマックス(パート1)』を鑑賞する機会に恵まれ、どこであの曲がかかるのかと耳を澄ませていたものの、映画中一度も流れることはありませんでした。頭の中は「?」でいっぱいです。

「image_bf0aa3.png」は、映画『マッドマックス』のポスター風イラストです。燃え上がる炎を背景に、レザーの衣装を纏いヘルメットを被った主人公がショットガンを掲げて立っています。その手前には特徴的な黒いマッスルカーが描かれており、上部には大きく「マッドマックス」のタイトルがデザインされています。全体的に力強く、荒廃した世界観が強調されたアート作品です。

しばらく経ってから映画雑誌を読み、驚愕の事実を知ることになります。あの曲は『Rollin' Into The Night』。なんと、日本での映画放映・宣伝のために串田アキラ氏が歌っていた日本オリジナルの楽曲だったのです。

「image_bf5ca3.png」は、映画の上映前に劇場内で音楽が流れている様子を描いたイラストです。スクリーンには「PRE-SHOW MUSIC 劇場内音楽放送中」と映し出され、観客たちはポップコーンを食べたり、談笑したりして思い思いにリラックスした時間を過ごしています。アニメ調の温かみのあるタッチで、開演前のワクワクする雰囲気が表現されています。

映画本編には一切関係ないにもかかわらず、あの場内で音楽を聴いていた時間も込みで、私の中の「マッドマックス体験」は形成されていました。現在、シネコンの上映前は無機質なCMや予告編のループに取って代わられてしまいましたが、映画館という空間を非日常に染め上げ、サントラ盤の販促にも繋がる「上映前の音楽」の文化が消えてしまったことは、非常に惜しいと感じています。

商業主義の波と、佳作を届けてくれる配給会社への感謝

こうした映画体験を振り返るにつけ、どうしても考えてしまうのが「現在の洋画配給の在り方」です。

かつては「日本ヘラルド映画」をはじめ、数多くの配給会社が世界中から様々な洋画を買い付け、日本のスクリーンに届けてくれていました。しかし現在、大作映画はディズニーやソニーなどのメガスタジオが直接配給を行うようになり、効率と利益が最優先される構造が出来上がっています。

「image_bf5d5a.png」は、コミックやゲーム原作の映画が大ヒットし、新たな映画時代が到来したことを伝える賑やかな街角を描いたイラストです。映画館には『LEGENDARY HEROES』や『GALACTIC QUESTERS』といった架空のヒット作の看板が掲げられ、興行成績が右肩上がりに伸びているグラフも描かれています。映画館の前には原作コミックを手に持ったファンやコスプレイヤーたちが集まり、「COMICS ARE CINEMA!」と書かれたボードを掲げる人もいて、映画と原作文化の盛り上がりを表現したエネルギッシュな作品です。

そんな中、小ぶりながらも質の高い「佳作洋画」を配給してくれているのが、木下工務店(キノフィルムズ)などの存在です。 もし彼らが配給してくれていなければ、私は映画館で数々の素晴らしい洋画に出会うことはできなかったでしょう。そう気づいた時、深い感謝の念が湧き上がると同時に、背筋が寒くなるような危機感を覚えます。

圧倒的な商業主義に陥った大手の配給会社の中に、果たして「真の映画好き」は生き残っているのでしょうか。利益の方程式には乗らないかもしれないけれど、誰かの人生に深く刺さる不器用な映画。それを届けるという文化的な使命感は、どこへ行ってしまったのでしょうか。

「image_bf641e.png」をベースにした、映画『MUTINY』のアクション満載のグラフィックノベル風ポスター。構図は元画像を踏襲し、上部に「FROM THE DIRECTOR OF PLANE」と「JASON STATHAM」のテキスト、その下に巨大なタイトル「MUTINY」、さらに下に「THERE'S BLOOD IN THE WATER」のキャッチコピーが配置されている。同じポーズ、同じ服装(デニムジャケットとカーゴパンツ)のジェイソン・ステイサムが、拳銃を手に錆びたアンカーにしがみつき、荒波に揉まれる大型貨物船の船体に対して移動している。荒れた海面には、元画像のフリゲート艦がもう一隻加わり、合計2隻の小艦隊となっている。その2隻の艦艇の間には、2人の人影が乗った小さな赤いゴムボートが波に揺られている。重く立ち込める嵐の雲に覆われた空の下、2隻の艦艇の周囲、そしてアンカーとボートの間の海面に、鮮烈な血の赤色の染みが広範囲に広がっており、「blood in the water」のコンセプトが強調されている。錆びた質感や波しぶきの表現は元画像以上に鮮明で、全体的な色彩はミュートされつつも赤が強調されている。下部には「MASTIFF」と「LIONSGATE」のロゴ、そして「IN THEATERS AUGUST 21」のテキストが配置されている。

効率化され、見たいものだけを見せてくれる現代のシステムは優れています。しかし、時にはあの頃のように、財布を持たずにポケットに現金を突っ込み、予定調和を裏切るような映画との「予期せぬ出会い」を求めてしまう自分がいるのです。

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