【映画批評】『スマッシング・マシーン』光と影の格闘人生:『シド・アンド・ナンシー』との奇妙な反転、そしてエミリー・ブラントの真骨頂

こんにちは、白うさぎ16879です。

今回は、A24が放つ大注目の伝記スポーツ・ドラマ映画『スマッシング・マシーン(原題:The Smashing Machine)』を取り上げます。


かつて「霊長類最強の男」と称された総合格闘家マーク・カーの栄光と苦悩を描いた本作。ハリウッドのトップスターであるドウェイン・ジョンソンの新境地や、豪華な日本人キャストの起用など見どころ満載ですが、今回は映画の基本情報に加え、本作を鑑賞して深く心に刺さった「ある伝説のパンクバンドとの奇妙な対比」、そしてヒロインを演じたエミリー・ブラントの魅力について徹底考察していきます。


🎬 『スマッシング・マシーン』作品情報&驚きのトリビア

まずは、本作のバックグラウンドと、知るとさらに面白くなるトリビアをおさらいしておきましょう。

作品の基本情報

  • 監督・脚本: ベニー・サフディ(『アンカット・ダイヤモンド』など、今作が単独監督デビュー)

  • 主演: ドウェイン・ジョンソン(マーク・カー役)、エミリー・ブラント(妻ドーン役)

  • 配給: A24

  • 概要: 1990年代後半のUFCや日本のPRIDE黎明期を舞台に、圧倒的な強さの裏で深刻な鎮痛剤(オピオイド)中毒や精神的プレッシャーに溺れていくマーク・カーの半生をリアルに描く。


💡 注目トリビア:こだわりのリアリティと日本人キャスト

本作の大きな魅力は、CGに頼らない徹底したリアリティです。 劇中でマーク・カーと激闘を繰り広げた実在のファイター「エンセン井上」役には、なんと北京五輪柔道金メダリストの石井慧さんを起用。さらに、PRIDEのCEOである榊原信行役には大沢たかおさんが配され、ドウェインの巨体に負けない圧倒的な風格でファンを唸らせました。 ドウェイン自身もトレードマークの笑顔を封印し、過酷な肉体改造の末に「キャリア最高の演技」と称されるほどの新境地を開拓しています。



🎧 鳴り響く「マイ・ウェイ」:『シド・アンド・ナンシー』との破滅的類似、そして決定的な明暗

本作を鑑賞していて、ある過去の名作映画が頭をよぎりました。伝説のパンクバンド「セックス・ピストルズ」のベーシスト、シド・ヴィシャスとその恋人の破滅的な愛を描いた映画『シド・アンド・ナンシー』です。


1. 依存と嫌悪が同居する「薬物中毒」の男女関係

マークと妻のドーンの関係性は、まさにシドとナンシーのようでした。お互いに深く依存し合いながらも、時にお互いの存在を疎ましく思い、嫌悪し合う。そして、男は過酷な現実から逃避するように深刻な薬物依存に陥り、女は精神を病み、自死の淵へと追い詰められていく――。その泥沼の構図は驚くほど酷似しています。


2. 「マイ・ウェイ」がもたらした対比

劇中、マークがトレーニングを再開を開始した時に、あの名曲「マイ・ウェイ」が流れます。「マイ・ウェイ」といえば、セックス・ピストルズを脱退したボーカル:ジョニーロットンのあと、シド・ヴィシャスが、自身の破滅的な生き様を象徴するかのように歌い上げた、曲としても有名です。


しかし、ここから二人の運命は決定的な「明暗」に分かれます。

  • マーク・カー: 「マイ・ウェイ」のメロディのあと、彼はどん底から這い上がり、人間として立ち直っていく。

  • シド・ヴィシャス: ナンシーを殺害(諸説あり)し、自身もその直後にオーバードーズで若くして命を落とす。

この一曲を境界線とした生と死、再生と破滅の対比は、観る者の心に深く突き刺さります。

3. 「暴力を生業とする者」と「暴力に憧れた者」

もう一つ興味深いのは、両者の「暴力へのスタンス」の違いです。 格闘家であり、暴力を生業(プロの仕事)にしているマークは、皮肉なことに日常のプライベートでその力を外に向けることはありません。 一方で、本質的な暴力の素養を持たないシドは、社会への反抗として、パンクの暴力を外へと撒き散らしていました。


もし、シドがマークのように現実と向き合い、あの依存から立ち直っていたらどうなっていたでしょうか?「もしや、現在のマークのように『太ったおじさん』になって、元気に生きていたのだろうか……」そんな、パンクのアイコンを貶めるような、しかし愛おしい妄想をつい抱いてしまうほど、二人の人生の対比は鮮烈です。


👠 「ちょっと嫌味な女性」を演じさせたら右に出るものはいない!エミリー・ブラントの真骨頂

最後に、本作のドラマを極限まで引き締めたヒロイン、エミリー・ブラントについて触れないわけにはいきません。

彼女の演技を観て改めて確信したのは、「ちょっと嫌味で、一癖ある女性を演じさせたら、今や彼女の右に出るものはいない」ということです。完璧な善人ではなく、人間の持つドロっとしたエゴや嫌らしさを魅力的に演じ分ける表現力は、現在のハリウッドでもトップクラスです。


今や超売れっ子の彼女ですが、今後の待機作には『プラダを着た悪魔2』、そして大きな注目を集める『ディスクロージャー・デイ(Disclosure Day)』が控えています。(主演のドウェイン・ジョンソンも負けず劣らずの売れっ子ですが、この二人のコンビネーションは本当に素晴らしい!)

次作『ディスクロージャー・デイ』でも、彼女がまた最高にスパイスの効いた、魅力的な「嫌味な女性」を演じてくれるのかどうか、今から楽しみで仕方がありません。


栄光の裏にある孤独と依存、そしてそこからの再生を描いた『スマッシング・マシーン』。 単なる格闘技映画の枠に収まらない、人間の深淵を描いた大傑作です。未見の方はぜひ、彼らの関係性と「マイ・ウェイ」の旋律に耳を傾けてみてください。


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