1950年代、一人のエリート天文学者が謎の死を遂げました。彼の名はモーリス・ジェサップ。 彼を死へと追いやったのは、自ら書き上げた一冊のUFO研究書と、そこに書き込まれた「正体不明の男」による狂気的な注釈でした。
今回は、都市伝説「フィラデルフィア計画」の原点であり、今なお陰謀論の聖典とされる『The Case for the UFO(Varo版)』にまつわる数奇な物語を辿ります。
1. 天文学者モーリス・ジェサップの野心
モーリス・ジェサップは、決して怪しげなオカルト愛好家ではありませんでした。ミシガン大学で博士課程を修めた天文学者であり、南アフリカの天文台で二重星の観測に携わるなど、確かな実績を持つ科学者でした。
そんな彼が1955年に出版したのが『The Case for the UFO(UFOへの提言)』です。 当時のUFO本といえば「宇宙人と金星に行った」というような空想的な体験談が主流でしたが、ジェサップのアプローチは極めて論理的でした。彼は、UFOの驚異的な機動性を説明するために、アインシュタインの「統一場理論」を引用し、磁場と重力を操作する「反重力推進」の可能性を提唱したのです。
しかし、この知的な探求が、彼を底なしの沼へと引きずり込むことになります。
2. 「カルロス・アレンデ」からの奇怪な手紙
本の出版直後、ジェサップのもとにカルロス・ミゲル・アレンデと名乗る人物から不可解な手紙が届きました。 手紙の内容は、ジェサップが提唱した「磁場による重力制御」が、すでに1943年の海軍実験(フィラデルフィア計画)で実用化されていたという告発でした。
アレンデはこう主張しました。
「私はフィラデルフィアの岸壁から、駆逐艦エルドリッジが光り輝く緑色の霧に包まれ、一瞬にして姿を消すのを見た。しかし、その代償は凄惨なものだった。戻ってきた乗組員たちは船体に体が溶け込み、ある者は発火し、ある者は精神を病んで二度と戻らなかった……」
ジェサップはこの支離滅裂な内容を当初は無視していましたが、事態は思わぬ方向へ転がります。
3. 海軍研究局(ONR)の招集
1957年、ジェサップはワシントンD.C.のアメリカ海軍研究局(ONR)に呼び出されました。 そこで将校たちから見せられたのは、彼自身の著書『The Case for the UFO』でした。しかし、それはただの本ではありません。
ページの余白には、「A」「B」「Jemi」という3人の人物が対話しているかのような三色の書き込みがびっしりと埋め尽くされていました。そこには、現代科学を遥かに凌駕する「宇宙の仕組み」や「重力制御の数式」、そしてアレンデの手紙と同じ「フィラデルフィア計画」の詳細が記されていたのです。
驚くべきことに、海軍はこの「落書き」の内容を極めて深刻に受け止めていました。彼らはジェサップに協力を求め、この注釈の意味を解析しようとしたのです。
4. 悲劇的な結末
この出来事を境に、ジェサップの人生は暗転します。 彼はアレンデの影と、自分を監視する政府の視線に怯えるようになりました。研究は行き詰まり、私生活も破綻。1959年、彼はフロリダの公園で、車内に排気ガスを引き込んだ状態で遺体となって発見されました。
公式には「自殺」とされましたが、彼の友人の多くは、彼が死の直前に「フィラデルフィア計画の決定的な証拠を掴んだ」と語っていたことから、何らかの力が働いたのではないかと疑っています。
5. 伝説の「Varo版」:開いてはいけない頁
ジェサップの死後、海軍の請負業者であったVaro社が、例の注釈入りの本を極秘に複製しました。これが、今日『Varo Edition(ヴァロ版)』として知られる伝説の書です。
この本は、単なるSF的な読み物ではありません。
物理学への言及: テスラのコイル技術を思わせる、高周波磁場による時空間の歪曲。
隠蔽された歴史: 1940年代に密かに行われていた磁気実験の記録。
謎の注釈者: アレンデが一人で三役を演じていたのか、あるいは本当に「何か」を知る組織の会話だったのか。
ジェサップが夢見た「重力の克服」という科学の光は、アレンデという「闇の目撃者」によって、呪われた都市伝説へと変貌してしまいました。
Varo版のページをめくる時、私たちは単なる陰謀論を読んでいるのではありません。一人の科学者が真実に近づきすぎ、そして飲み込まれていった、その痕跡を辿っているのです。
【あとがき】 ニコラ・テスラの未完成の理論と、ジェサップが追い求めた反重力。この二つが交差する地点に「フィラデルフィア計画」が存在するとしたら、その真実は今も世界のどこかで静かに、磁場の渦に隠されているのかもしれません。

コメント
コメントを投稿